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盛岡家庭裁判所 昭和38年(家)598号 審判 1963年10月25日

申立人 川井昌子(仮名)

相手方 大石公三(仮名)

事件本人 大石勇(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立の実情は、つぎのとおりである。

申立人は、昭和三四年一〇月二〇日相手方と協議離婚し、長女俊子の親権者を申立人、長男勇の親権者を相手方と定めた。相手方は、昭和三五年六月二二日松本リツと婚姻し、昭和三七年六月九日その間に男子が出生した。相手方は、昭和三六年五月に事件本人を引取つて養育していたが、上記男子出生後は事件本人の養育を妻リツの実家である松本方に託している。申立人は。ようやく経済的にも将来の見通しがあかるくなつたので、親子三人の生活を強く念願しており、親権者を申立人に変更することは、事件本人のしあわせでもある。申立の実情を要約すると、以上のとおりである。

離婚によつて、父母の一方を親権者と定めた場合、離婚後に生れた子の親権者を父と定めた場合、認知後に父を親権者と定めた場合に、子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によつて、親権者を他の一方に変更することができる。この変更が許されるためには、親権者の親権が依然単独行使の状態にあることを要する。もし、単独親権者が死亡してその親権が終了し、後見が開始したときは、もはや変更は許されない。また、単独親権者であつた者が、子の養親と婚姻したとき、または単独親権者の配偶者が子と養子縁組をしたときは、親権は実親と養親との共同行使となるものとされているが、この場合も実親の親権は単独行使の状態にないので、その親権を他の一方に変更することは許されないものと解する。もともと、民法は、親権は婚姻中にある父と母の共同行使を当然のこととしておるのに、もし、以上の場合実親の親権を他の一方に変更することができるものと解すると婚姻関係にない-あり得ない-二名の男性または二名の女性の親権者が同時に存在するという、民法の全く予想だにしなかつた事態が生ずることになるし、また、この二名の親権は、いたずらに衝突反ぱつして事端を繁くし、子の福祉を目的とする親権が正しく行なわれない結果を招くであろう。

申立人が、本件申立をしたのは、昭和三八年五月二五日であるが、その後六月七日相手方の妻リツは事件本人と養子縁組をし、事件本人に対する親権は、相手方とリツの共同行使となつたのである。上記養子縁組は、無効のものとはされていない。そうすると、さきに述べたところにより、相手方の親権を申立人に変更することはできなくなつたので、本件申立は、却下するほかない。

(家事審判官 斎藤規矩三)

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